2026.03.03 。 代表 猪原
バラの香りと聞いて、頭に思い浮かべるのはどんな香りですか。
甘く、少し重みのある、あの香り。おそらく多くの人がイメージするのは、ブルガリア産かフランス・グラース産のダマスクローズの香りだと思います。世界の香水産業を長く支えてきた、いわばバラの代表的な香りの基準となるものです。
モロッコのダマスクローズは、少し違います。
甘さが控えめで、どこか軽やかでシャープな印象がある。重く甘いバラではなく、バラの茎や葉を思わせる緑のニュアンスが、気づくか気づかないかくらいに漂う。その微妙なバランスが、この香りをどこか記憶に残るものにしている。「確かにバラなのに、すっきりしている」という感覚です。私が初めてモロッコ産のローズウォーターをもらったとき、思わず固まりました。こんな香りがあるのか、と。
なぜ、産地で香りが違うのか
なぜ産地で香りが変わるのか。その答えは、育つ環境にありました。同じダマスクローズ(Rosa damascena)でも、モロッコのバラ産地・ダデス渓谷は標高1,400〜1,600メートルに位置し、主要産地のなかで最も高い場所にあります。ブルガリアの産地は300〜400メートル、トルコでも約1,000メートルですから、その差は一目瞭然です。
高標高による強いUV、年間降水量200〜300ミリの乾燥、そして昼と夜で20度以上の温度差。これほど過酷な環境で育つダマスクローズは、花の成分が変わります。具体的には、「シトロネロール」という成分が多く、「ゲラニオール」という甘さの主役となる成分が少なくなる傾向があります。結果として甘さが抑えられ、フレッシュさとシャープさが前に出る。それがモロッコ産のダマスクローズの香りの個性です。
カラト・ムグナという街のこと
モロッコ中部、アトラス山脈の南側に「カラト・ムグナ(Kalaat M'Gouna)」という街があります。「バラの谷」と呼ばれる場所で、タクシーまでピンク色に塗られています。年に一度、ローズフェスティバルが開かれ、街じゅうがダマスクローズの香りに包まれます。
私もその街に足を運びました。現地で香りを嗅いで、確信しました。この香りは、日本でまだほとんど知られていない。
一度きりの開花に、すべてをかける品種
このバラには、もうひとつ知ってほしいことがあります。品種の名を、ロサ・ダマスケナ(Rosa × damascena)といいます。年に一度、四月の末から五月のはじめ、ほんのわずかな間だけ咲く、一季咲きのバラです。
ヨーロッパには、年に二度咲く「キャトルセゾン(Quatre Saisons)」という品種もあります。それでもアルガニエが選んだのは、一度きりの開花にすべてをかける、このロサ・ダマスケナでした。限られた時間のなかでしか咲かない花にこそ、香りに込められた意味が、深く宿ると思うからです。
甘さに寄りかからず、それでいて心を満たす。この研ぎ澄まされた香りが、アルガニエの二番目の製品にダマスクローズを選んだ理由のひとつです。
バラの香りが苦手だった人ほど、好むかもしれない
ローズウォーターというと、女性向けのもの、という先入観があります。ただ、モロッコ産の香りは、その前提が通じません。
甘さよりキレが勝っているので、むしろ香りが苦手という人にも「これなら好きかも」と言われることがあります。素肌につけていると、人から「いい香り」とよく言われます。自分でいい香りだと思っていたものを、人からも「いい香り」と言ってもらえる。それは素直に嬉しいことです。
FAQ
Q. モロッコ産ダマスクローズはブルガリア産と何が違うのですか?
育つ環境が異なります。モロッコ産は標高1,400〜1,600メートルの過酷な環境で育つため、甘さの主成分であるゲラニオールが少なく、シトロネロールが多い傾向があります。その結果、ブルガリア産のまろやかで甘い香りとは異なり、シャープでフレッシュな香調になります。
Q. ローズウォーターは男性が使っても問題ありませんか?
問題ありません。アルガニエのローズウォーターは、甘さよりもフレッシュなキレが際立つ香りのため、男性にも好まれる傾向があります。
Q. カラト・ムグナのバラはいつ収穫されるのですか?
例年5月頃に収穫の最盛期を迎えるとされています。この時期にローズフェスティバルが開催されます。