OVERVIEW
アルガンオイルの品質は、製法によって大きく左右されます。コールドプレス(低温圧搾)製法とは、熱を加えずに圧力だけでオイルを搾る方法。ビタミンEや不飽和脂肪酸を損なわず抽出できるため、スキンケアに使うアルガンオイルでは最も重視される工程です。伝統的な手絞り・機械コールドプレス・溶剤抽出の違いを、成分データとともに解説します。
「コールドプレス」という言葉を、アルガンオイルやオリーブオイルのラベルで見かけたことがあるのではないでしょうか。直訳すれば「冷たい圧搾」。しかし、その一語が示す品質の差は、想像以上に大きなものです。同じアルガンの実から搾っても、製法が異なれば、肌に届く栄養はまるで別物になる。この記事では、アルガンオイルの3つの製法を比較しながら、コールドプレスが品質に与える影響を具体的な成分データとともにお伝えします。
コールドプレス(低温圧搾)とは何か
コールドプレスとは、原料に熱を加えず、物理的な圧力のみでオイルを搾り出す製法です。
一般的に、搾油時の温度が60度以下に保たれることが条件とされています。オイルに含まれるビタミンやポリフェノールなどの微量栄養素は、高温にさらされると構造が変化し、本来の働きを失います。コールドプレスが重視されるのは、まさにこの「熱による劣化」を防ぐためです。
化学溶剤も使いません。圧力だけで搾るため、オイルの純度が保たれる。これはオリーブオイルの世界では広く知られた原則ですが、アルガンオイルではさらに重要な意味を持ちます。なぜなら、アルガンオイルに含まれるビタミンE(トコフェロール)の含有量は、オリーブオイルの約2〜3倍とされているからです。守るべき栄養素が多い分、製法の影響がより大きく出るのだろう。
3つの製法を比較する――伝統手絞り・機械コールドプレス・溶剤抽出
製法の違いは、抽出効率・栄養保持・品質安定性のバランスに直結します。
モロッコのアマーズィーグ(Amazigh)の女性たちは、何世紀にもわたり石臼を使ってアルガンの実を手作業で搾ってきました。堅い殻を石で割り、仁を取り出し、ゆっくりと圧をかけてオイルを得る。100kgの果実からわずか1リットルしか採れないほど、手間のかかる工程です。
現在は、この伝統を受け継ぎながらも品質を安定させるために、機械によるコールドプレスが主流となっています。では、なぜ「手絞りのほうが上質」と言い切れないのか。それは品質の安定性に関わる問題です。
| 比較項目 | 伝統的手絞り | 機械コールドプレス | 溶剤抽出 |
|---|---|---|---|
| 抽出温度 | 常温(手の摩擦熱のみ) | 60度以下 | 高温(溶剤の沸点に依存) |
| 化学溶剤 | 不使用 | 不使用 | ヘキサン等を使用 |
| 抽出効率 | 低い | 中程度 | 高い(最大97%) |
| 栄養素の保持 | 高い | 高い | 低い(熱で損なわれる) |
| 品質の安定性 | ばらつきあり | 安定 | 安定 |
| 主な用途 | 現地の食用・伝統的使用 | 化粧品グレード | 工業用・一部化粧品原料 |
研究によれば、伝統的手絞りと機械コールドプレスのポリフェノール・トコフェロール含有量には有意な差が見られないとされています。つまり、栄養価は同等でありながら、品質の均一性は機械コールドプレスのほうが高い。毎回同じ品質のオイルを届けるためには、伝統への敬意と近代的な品質管理の両立が求められるのです。

コールドプレスで守られる成分――数字が語る品質の差
アルガンオイルの不飽和脂肪酸は全体の約80%を占め、コールドプレスはこの構成を損なわず抽出できます。
アルガンオイルの脂肪酸組成を見てみましょう。主要な構成成分は、オレイン酸(約43〜49%)とリノール酸(約29〜37%)です。オレイン酸は肌なじみのよさに寄与し、リノール酸は肌のバリア機能を構成するセラミドの原料となる必須脂肪酸です。
高温で搾れば抽出量は増えます。溶剤を使えばさらに効率は上がり、種子に含まれるオイルの最大97%を回収できるとされています。しかし、そこで得られるオイルの風味や質感は消費者に好まれないことが多く、化粧品原料としても成分バランスが崩れやすい。
ビタミンE(トコフェロール)の保持
アルガンオイルに含まれるビタミンE(トコフェロール)は、60〜90mg/100gとされています。なかでもγ-トコフェロールが主成分で、これはオリーブオイルの約2〜3倍にあたる含有量です。
トコフェロールは酸化を抑制する働きがあり、オイルそのものの鮮度維持にも貢献します。しかし、この成分は熱に敏感であり、高温抽出では大幅に減少することが報告されています。コールドプレスを選ぶ意味は、この「守るべき成分を守る」という一点に集約されるのではないでしょうか。
製法だけでは語れない、その先の品質管理
搾油後の保管・輸送・充填の環境が、最終的な品質を決定づけます。
ここで一つ、見落とされがちな事実があります。コールドプレスで丁寧に搾ったオイルであっても、その後の工程で品質は容易に劣化するということです。アルガンオイルの不飽和脂肪酸比率が約80%と高いことは、裏を返せば酸化しやすいことを意味します。
搾油後に常温で長期間保管されれば、光と熱によって酸化が進みます。透明なボトルに入れれば紫外線の影響を受けます。船便で数週間かけて輸送されれば、コンテナ内の温度変化にさらされる。製法がどれほど優れていても、その後の管理が伴わなければ、消費者の手元に届くときには別物になっている可能性があるのです。

ARGANIE(アルガニエ)が選んだ一連の工程
私たちの基準は、コールドプレスの先にある「搾油から肌に届くまで」の全工程です。
アルガニエでは、その年に収穫されたアルガンの実だけを使用しています。天日干しで余分な水分を抜いた種子を、熱を加えないコールドプレスで搾油する。ここまでは品質を重視するブランドであれば、多くが行っていることかもしれません。
私たちが時間をかけて構築してきたのは、その先の工程です。搾油後48時間以内にモロッコから空輸し、褐色ガラス瓶に充填して紫外線を遮断する。「なぜ船便ではなく空輸なのか」と聞かれることがありますが、それは鮮度を重視した結果としての必然です。不飽和脂肪酸の比率が高いアルガンオイルは、時間の経過とともに酸化が進みます。輸送時間を最短にすることは、コールドプレスで守った栄養素を最後まで損なわないための、もう一つの選択なのだ。
まとめ
コールドプレスとは、熱を加えずに圧力だけでオイルを搾る製法であり、ビタミンEや不飽和脂肪酸をそのまま保持できる点が最大の特長です。しかし、製法だけで品質が担保されるわけではありません。搾油後の保管環境、輸送方法、容器の選択まで、一連の工程が揃ってはじめて、アルガンオイル本来の力が肌に届きます。「コールドプレス」のラベルを見たとき、その先にある工程まで想像してみてください。
よくある質問
Q. コールドプレスと低温圧搾は同じ意味ですか?
A. はい、同じ製法を指します。コールドプレスは英語の「Cold Press」をそのままカタカナにした表記で、日本語では「低温圧搾」と訳されます。いずれも搾油時に60度以下の温度を保ち、化学溶剤を使わずに物理的な圧力のみでオイルを抽出する方法です。
Q. 手絞りのアルガンオイルのほうが品質は高いのですか?
A. 栄養価の面では、研究により伝統的手絞りと機械コールドプレスでポリフェノール・トコフェロールの含有量に有意な差がないことが報告されています。ただし手絞りはロットごとの品質のばらつきが生じやすく、機械コールドプレスのほうが安定した品質を維持しやすいとされています。
Q. アルガンオイルのビタミンE含有量はどのくらいですか?
A. アルガンオイルのビタミンE(トコフェロール)含有量は60〜90mg/100gとされ、主成分はγ-トコフェロールです。これはオリーブオイルの約2〜3倍にあたり、コールドプレス製法で搾油することでこの含有量を損なわず抽出できます。
Q. 溶剤抽出のアルガンオイルはスキンケアに使えますか?
A. 溶剤抽出は抽出効率が高い反面、高温処理によりビタミンEなどの有効成分が減少し、風味や質感も損なわれる傾向があります。化粧品グレードのアルガンオイルには、コールドプレス製法で搾油されたものを選ぶことをおすすめします。